『浮雲』


1955年制作の成瀬巳喜男監督による大メロドラマ『浮雲』、
男と女の何年にもおよぶ淪落の物語。
124分とちょっと長いけれど、力強さでぐいぐい魅せる。

男と女ーゆき子と富岡は第二次世界大戦時、赴任先の仏印(ベトナム)で出会う。
明るいベトナムの光の中、娘らしい輝く美しさを放つゆき子。
帰国後の終戦間もない暗くすさんだ日本で落ちぶれてゆく姿は、
胸に迫るコントラスト。
ゆき子を演じるのは当時の大スタア女優高峰秀子。
ノーブルな顔立ちに、人並みはずれた眼光の力強さ。
富岡を演じるのはもちろんスタアの森雅之。
彫りの深い顔立ちに憂いある表情、
生活は落ちぶれているのに、女に事欠かない役がしっくりくる。

昔の日本映画で楽しいのは、
昔の暮らしぶりや風景が見れること。
『浮雲』は終戦まもない東京が舞台なので、バラック小屋ばかり。
千駄ケ谷駅も見事にバラック。

食事のシーンはあまりないけれど、
ラーメン屋さんで外食するシーンがある。
当時だから支那麺ていうんだろうね、
具の少ないラーメンをズルズルズル言わせながらすすっていた。

ゆき子と富岡は伊香保温泉へゆく。
急な階段が目立つひなびた温泉街。
この映画の影響で、伊香保温泉は一躍人気観光地になったそう。

伊香保温泉は、硫酸塩泉(茶褐色)、メタケイ酸単純泉(無色透明)。
映画では濁っていたので、硫酸塩泉と思われます。

主な効能は、
神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、打ち身、くじき、慢性消化器病、痔疾、冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進。

ていうか、混浴なのにびっくり。

伊香保温泉で富岡が見初める女、おせい。
演じる岡田茉莉子がなんとも妖艶。
こんなまなざしで、熱燗を注がれたらもう殺されたも同然だと思う。

映画の中でよく目についたのが、火鉢。
これで暖をとったり、タバコに火をつけたり
(タバコは吸う、ではなく、飲む、と言う)。
当時のご家庭には必ずあったものなのかな?
いまでも古道具屋さんには置いてありますが。

ちなみに森雅之の実際の父親は有島武郎という高名な小説家で、
不倫相手の女性と心中事件を起こしてる。
この話は後に『失楽園』のモチーフとなる。
ちょっと不思議な気持ちになるよね。

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